2016/06/29 Category:イタリア

【生産者インタビュー】 マレンマ地方モレッリーノ・ディ・スカンサーノを代表するプレミアムワイナリー「ファットリア・レ・プピッレ」

マレンマ地方モレッリーノ・ディ・スカンサーノを代表するプレミアムワイナリー、ファットリア・レ・プピッレ。オーナーのエリザベッタ・ジュペッティ氏がたった2haの畑から始めたこのワイナリーは、1987年にリリースしたカベルネ・ソーヴィニヨン100%のフラッグシップワイン「サフレディ」が振興地マレンマのスーパートスカーナとして注目されたことを契機に、90年代には早くも世界的評価を得、現在ではトスカーナを代表する生産者のひとつとして世界中で知られる存在になっています。

home_5.jpg

 

今回のインタビューは、有名店「ヴィーノ・デッラ・パーチェ」の内藤ソムリエにご協力をいただき、来日したクララ・ジュペッティ氏(写真:右)に質問をしていただきました。クララ氏はオーナーのエリザベッタ氏の娘で、プピッレの販売を担当しています。

 IMG_4236.jpg

 

①一般的にモッレリーノ・ディ・スカンサーノのワインはカジュアルなワインだと思われがちだが、スカンサーノ地域のアイデンティティとは何なのか?

まず初めに、スカンサーノ地域がワイン産地として認識されたのはごく最近である、という事を考慮しなければなりません。もともとスカンサーノ地域は、高品質な葡萄を作る産地として知られていたので、70年代頃は、トスカーナの他の産地の主な葡萄供給元となっていました。

スカンサーノ地域がワイン産地としてのアイデンティティをスタートさせたのは、1978年、モッレリーノ・ディ・スカンサーノがDOCに認められて以降です。その当時モッレリーノ・ディ・スカンサーノを作っているワイナリーは10生産者にもなりませんでした。

その後、とりわけ90年代に入って、スーパートスカーナがブームになって以降、多くの生産者がスカンサーノに畑を買い、先駆者達にならって、モッレリーノ・ディ・スカンサーノを作るようになりました。今日では、モッレリーノ・ディ・スカンサーノの生産者は100を超える程になっています。

モッレリーノ・ディ・スカンサーノがカジュアルなワインだと見なされている事について、私の意見としても、やはりカジュアルなワインだと思います。通常モッレリーノ・ディ・スカンサーノは新鮮で、ジュイシーで、飲みやすく、とても親しみやすいワインです。それは、この土地の個性的なテロワールがもたらすものです。

もちろん、素晴らしいモッレリーノ・ディ・スカンサーノ(例えば私たちのポッジョ・ヴァレンテのような)を作ることも出来ます。しかしながら、この土地の本来の使命は、やはり理解しやすいワインを造ることだろう、と思います。

しかしそれは、私たちが直面しているタブーでもあります。すなわち、スカンサーノのエリアでは偉大なワインが作れない、もしくは評価されない、と考える人が多いのです。しかし、本当にこの土地の可能性を信じ、愛情と情熱をもって取り組めば、最後は必ず報われると信じています。

おそらく、スカンサーノには、まだ誰も注目していなかった頃からこの土地の可能性を信じてきた、私の母のような人々がもっと必要なのかもしれません。

 

home_6.jpg

 

 

②スカンサーノのテロワールについて

スカンサーノは極めて小山の多い丘陵地帯です。土壌は岩が元となっており、主に砂岩で、砕けやすい土壌の為、排水性・通気性が良く、葡萄の樹の根が呼吸しやすく、また地中深くまで根をはりやすいという性質があります。

また、ほどよく粘土質も混ざっており、樹へ栄養分を供給しています。天候は中庸で、冬はそこまで寒くなく(最低でも0度)、とても長く雨の少ない春と秋、そして暑い夏が来ます。

通常、一年を通して晴れの日が多く、めったに雨は降りません(雨は主に12月か、2-3月に集中)。

海からの影響がとても強く、年中海風が畑を通るので、日中の寒暖差が大きいです。夏は特に寒暖差が大きく、葡萄の成熟を助け、日中は糖度を高め、夜間は色やアロマを高める働きをしています。

 

home_1.jpg

 

③他の産地との違いについて、とくにキアンティとの違い

キアンティは一般的に言って広すぎる為、ここではキアンティ・クラシコとの違いについて語りたいと思います。

まず、地理学的な違いから。どちらも丘陵地帯ですが、キアンティ・クラシコはより内陸部に位置する為、マレンマ地方のように海からの影響は受けません。これが、天候の違いをもたらしています。キアンティ・クラシコの方が冬はより寒く(積雪もします)、夏はより暑くなります(気温を和らげる海がない為)。

キアンティ・クラシコの方が雨が降りやすく、降る期間も年間を通していつでも降る可能性があります。これは、葡萄の成熟に大きく影響をもたらします。

その為、キアンティ・クラシコはよりタンニンが強く、長期熟成型なのに対し、モッレリーノ・ディ・スカンサーノはよりタンニンが柔らかく、葡萄の樹になっている状態ですでに、葡萄はドライというよりもジュイシーです。

 

④他のスカンサーノ地域の生産者の中で、プピッレのアイデンティティは。特徴や個性、強みは。

A)歴史

プピッレはスカンサーノのポテンシャルにいち早く目を付け、畑の購入や品質向上等、様々な改革を行ってきたパイオニアです。例えば、モンタルチーノのビオンディ・サンティのように。

B)質

設立当初より、著名なコンサルタントの協力を得ることができ、品質に焦点を当ててきました。歴代コンサルタントは、ジャコモ・タキス、リッカルド・コルタレッラ、(ラトゥールやロスチャイルド家のワインメーカーであった)クリスチャン・レ・ソムール、そして現在はルカ・ダットーマ。このような有名なコンサルタントに依頼できるワイナリーはそんなに多くはないでしょう。

C)畑の構造

畑はスカンサーノの一か所ではなく、各所に所有しており、これには二つの利点があります。一つ目は、厳しい年でも色々な箇所に畑を持っている事で、それぞれの畑毎に厳密な選択を行うことができ、最終的に高い品質を保つことができること。二つ目は、異なる場所に畑を持つ事で、異なる土壌、それぞれの持つ個性を高めることができ、最終的にワインになった時に、大きな個性を生み出します。

D)国際性と伝統

プピッレは設立当初から、国際性との関連を強く持っていました。それは、タキス氏がカベルネを植える事を助言し、後にサッフレディの畑となりました。またプティ・マンサンを植える事で、大変ユニークな白ワインを作ることができました。しかしながら、最終的には、自分たちの伝統や地域性を信じているので、90年代に新しく投資を行うチャンスが来た時、ちょうどその時代はスーパートスカーナが興隆した時代で、皆が国際品種に向かっていきましたが、私たちはその潮流の逆を行くことにし、サンジョベーゼの古い樹のあったポッジョ・ヴァレンテという畑を購入しました。特にコンサルタントがルカ氏になってから、より一層伝統に向き直るようになり、現在ではサンジョベーゼは全て、スラヴォニアンオークを使っています。

 

⑤今後のプピッレの方向性、夢は

私たちの一番大きな達成目標は、当初より、単なるワイナリーではなく、トスカーナの典型的な農園を営むことです。単に生産量を上げるのではなく、生産の多様性を広げたいと考えています。ワインやオリーブオイルだけでなく、庭には、フルーツやオーガニック穀物、そして野生の動物までいます。

そして現在進行形の計画が、白ワインだけの醸造設備を設置する事です。また、100%シラーのワインをアンフォラで醸造することも企画しています。

私たちの夢ですが、いつか全ての製品をオーガニックで造りたい、と思っています。

 

⑥コンサルタントの影響についてどう感じるか。

ジャコモ・タキス:

彼はプピッレに非常に大きな影響をもたらしました。すなわち、この地にカベルネを植える事を助言し、それが後に私たちを国際的に有名にしたサッフレディの誕生となったからです。もう一つ、タキス氏が行った特徴的な事として、1978年にモッレリーノ・ディ・スカンサーノのリゼルヴァにバリックを使ったことです。これは当時としては大変画期的なことで、当時マレンマの人々はボッティと呼ばれる伝統的なクリの木のオークを使用していました。

クリスチャン・レ・ソムール:

ボルドー出身のクリスチャン氏になってから、タキス氏以上に国際的な取り組みがなされました。その当時私たちは全ての樽熟成にフレンチバリックを使用していました。モッレリーノ・ディ・スカンサーノ・リゼルヴァのポッジョ・ヴァレンテにも使っていました。プティ・マンサンを植えることを示唆したのも、彼でした。このプティ・マンサンはポッジョ・アルジェンタートという白ワインに用いられ、とても個性的で特別なワインとなりました。全体的に言って、クリスチャンとの協力によって、母はエレガントなファインワインを造る経験を得ることができました。

ルカ・ダットーマ:

ルカ氏になってから、まず初めに、樽の見直しが行われました。それぞれのワイン個性と特徴を高める為、それぞれの熟成方法を変えました。彼になってから、ワインがよりクリーンになった印象があります。とてもバランスが取れていて、生き生きとした果実味が感じられ、そのワインがどこから来たものなのかを想像出来ます。イタリア出身の彼とともに、私たちはサンジョベーゼに再度重きを置くことにしました。実はサンジョベーゼ100%でワインを造ったのは、彼と仕事をするようになって初めてでした。

 

⑦オーガニックやビオディナミについてどう思うか。

私たちはまだオーガニックやビオディナミの認証を取得していません。しかし、畑や設備において、様々なサスティナブルな方法を採用しています。それは、ワインの質を向上するためでもあるし、また私たちの取り巻く美しい景観を維持する為でもあります。基本的に私たちの経験は、オーガニックとサスティナブル農法の原則に基づいています。

例えば、畑では、葡萄の病害対策として、硫黄と銅しか使っていません。硫黄と銅は、葉の表面にとどまり、葉の中の組織までは入っていきません。

また、畑では草生栽培を行っています。草生栽培には、土壌の有機成分を向上させる、草は様々な虫を買い、畑に生息している寄生虫と戦う、土壌成分を豊かにする、雨による浸食を防ぐ、等多くの利点があります。

亜硫酸塩の添加は最小限に抑えられています。ワイン醸造の過程で亜硫酸塩は2~3回しか使用されません。ボトル中の亜硫酸塩の含有量はとても低く、法律では180mg/lまで認められているところ、例えば赤ワインでは、60~90mg/l程です。

実は、去年の収穫が終わった後から、ある畑の後ろに1haだけ、ビオディナミ農法に沿った畑を作りました。どのような結果になるのか、また、他の畑にどのように応用できるようになるのか、とても楽しみにしています。

この畑では硫黄と銅以外に、tignolaという蛾の一種を避ける為に、セクシャルフェロモンをしかけています。畑に設置されたフェロモントラップから、tignolaの女性フェロモンが分泌されるようになっており、男のtignolaがこれにおびき寄せられます。しかし女のtignolaはそこにはいないので、結局卵を産み落とすことはありません。

また、来週から、私たちは海藻のラップというものをやろうとしています。これは、葡萄の表面に海藻由来の液体を塗り、葡萄の皮を厚く、強くし、虫や菌類が葡萄に付着するのを防ぐ役目を果たします。

何故私たちがオーガニックやビオディナミの認証をとらないのか、というと、私たちは、色々な所に畑を所有しているので、即座に全てをオーガニックにするのが難しいという事実があります。しかし、オーガニック、そしてビオディナミという二つの成長戦略が、明らかに必要とされてくる時代が来ていることはひしひしと感じています。

個人的に思うのは、もちろん認証や証明書は必要ですが、それ以前にもっと重要な事は、私たちを取り巻く環境、私たち皆を支えてくれている空気、食べ物、飲み物すべてに感謝し、尊敬の念を持つ事だと思います。

« 前の記事 |  このブログのトップへ  | 次の記事 »