2013/06/26| Category:出張レポート
2013スペイン出張レポート バルデシル
スペイン・ガリシア州バルデオラスの生産者、「バルデシル」を訪ねて来ました。バルデシルは高級白葡萄品種「ゴデージョ」のワインが素晴らしい作り手。当社ではバルデシル、ペサス・ダ・ポルテラ、ペドゥロウソスの3つのワインを取り扱っています。
2010年に初めて訪ねて以来、2度目の訪問となりました。
バルデシルとの出会いは、2010年にスペインで開催されたある展示会でした。朝から晩まで試飲漬け状態で「もうワイン飲みたくない・・・」と思いながらも、力を振り絞って最後に訪れたブースがバルデシルでした。
一口飲んでみて、その優しい口当たりと洗練された味わいに、心からホッとしたことを今でも良く覚えています。それがきっかけとなり翌日ワイナリーを訪れて情報収集。帰国後、取扱いが決定しました。
前回の訪問時は曇りでしたが、今回は晴天に恵まれました。ヨーロッパの空の青さっていいですよね・・・。
今回は4代目オーナーでありワインメーカーのボルハ・プラダさんに畑を案内していただき、バルデシルのワインの美味しさに迫ります。
「ワインは葡萄畑で出来る」というのが彼の考えで、「醸造設備を見てもあんまり意味ないよ」ということで今回の視察は葡萄畑のみ。
まずはバルデオラスについて。
バルデオラスはガリシア州の内陸にあり、海からの距離は約120マイル。海洋性気候と大陸性気候が入り交じった気候帯にあり、2つの気候帯の恩恵を受けているそうです。
バルデシルの畑は標高600mの場所にあります。ゴデージョが程よく熟すのに最も適した標高で、600mよりも下に行くとトロピカルフルーツのようなニュアンスが出てしまい、十分な酸も得られず、600m以上だと葡萄が熟すまでに時間がかかるため、天候に恵まれない年には質の高い葡萄を得るのが難しくなるそうです。
近年のゴデージョの人気を受けて新規参入してくる生産者が増えているそうですが、600m付近の葡萄畑は古くからの生産者が持っていて手に入らず、品質の高いワインが出来ずに苦労しているとか・・・。
バルデシルは三方を2000メートル級の山に囲まれています。冷たい風が山から下りてくることで葡萄畑の風通しが良くなり、病害の発生を防ぐのに役立っています。バルデシルの畑はすべてオーガニックですが、この立地もオーガニック農法に大きく役立っています。
畑は日当たりの良い南向きで、生産するワイン毎に4つに分けられています(モンテノーヴォ、バルデシル、ペサス・ダ・ポルテラ、ペドゥロウソス)。ペドゥロウソス以外の畑はいくつかの区画に分かれており、例えばペサス・ダ・ポルテラは11の区画に分かれています。それぞれ区画毎に収穫・醸造して最後にブレンドします。
それぞれの畑の写真です。
モンテノーヴォ(当社取扱いなし)
モンテノーヴォは一部、契約農家の葡萄を使用しているとのこと。
(バルデシルは契約農家の葡萄を使用していると思っていましたが、違いました。自社畑産葡萄100%でした。)
ペドゥロウソスは樹齢100年以上。曾祖父がこの地に初めて植えたゴデージョのクローン。 曾祖父がここに葡萄を植えるまで、バルデオラスではいくつかの品種をブレンドしてワインをつくるのが通例だったといいます。曾祖父がゴデージョのみでワインをつくると言ったとき周囲の反応は冷ややかだったそうですが、曾祖父はゴデージョの可能性を信じたそうです。
今日では最良のゴデージョを生み出すクローンとして知られるようになり、こっそり樹の一部を盗みにくる不届き者もいるそう。ボルハさんは「スペインでは私有地という概念があまり浸透していないんだよね」と笑っていました。
ペドゥロウソスで1本の樹から収穫する房の数は、1つの枝に生える葉の数に拠るそうで、
16枚の葉につき2房
10枚以下なら1房
9枚以下なら房は全て落とす
というように収量を制限し、品質を高く保っているとのことでした。
ちなみにこれがペドゥロウソス(大きな岩)の名前のもとになった岩で、畑のすぐ近くにあります。高さは2mぐらいでしょうか。(誰か立たせて写真撮れば良かった・・・)
4つの畑はすべてオーガニック。化学肥料の類いは一切使用していません。畝の間の草は生やしたまま。
生やしたままにしている理由は、土を守るためと、草が養分を吸い取ることで葡萄に養分が行き過ぎるのを防ぎ、樹勢を抑えるため。葉が多く茂りすぎて風通しが悪くなるのを防いでいます。
オーガニック認証は取得していません。理由を聞くと、オーガニックでない他の生産者の畑と隣接しすぎている(一定の間隔が空いているか、林などで隔離されていなければならない)ことと、オーガニック畑として申請するには一続きの畑で400㎡の面積が必要なところ、いずれの畑も小さいことから、申請が出来ないのがその理由とのこと。
畑をひととおり視察し、野外でテイスティング。
◆バルデシル 2007
◆バルデシル 2008
◆バルデシル 2009
2007年は暑かった年。パワフルなスタイルに仕上がっています。熟したリンゴやハチミツのニュアンス。2008年は涼しい年。エレガントなスタイルに仕上がっています。ややスモーキーなニュアンスがあるのはシュールリーの効果だそう。ジャンシス・ロビンソンは2007〜2009年を垂直試飲し、2008年ヴィンテージに最高の85点をつけたそうです。
ヴィンテージによって味わいが全く違っていたことに大変驚きました。
◆ペサス・ダ・ポルテラ 2009
◆ペサス・ダ・ポルテラ 2010
いずれのワインも時間とともに香りや味わいが次々と変化。いろいろな表情を見せてくれました。聞けばこの変化の多様さもゴデージョの特徴のひとつなのだそう。
すべてのワインに共通しているのがミネラル分。これはスレート土壌に由来。下はそれぞれのワインの土壌。
いずれもスレートですが、赤くなっているのは鉄分が酸化したもので、黒いものよりも時間が経過している古い土壌であることを示すのだそうです。古い土壌の方が複雑性が増すため、こちらの土壌は上級ワイン用にしているとのこと。
テイスティングの後、ゴデージョの性質についてボルハさんが説明してくれました。
まず、「テロワールを反映しやすい」という性質があるそうです。バルデシルのテロワールは、大陸性気候と海洋性気候の2つの特徴があり、また、畑もいくつかの区画に分かれていてそれぞれの個性があり、まさに多種多様。グラスに注いでから時間が経つとともに様々な香りや味わいが出てきたのはそのためでした。
逆に、「狙ったような味わいにもしやすい」という性質もあるそうですが、このように作った場合は味わいに変化が乏しくなり、単調でつまらないものになるそうです。
良くも悪くも外部からの影響を受けやすく、その分テロワールや作り手の力量の差がモロに出てしまう品種だと言えるかもしれません。
4世代に渡ってゴデージョ造りを続けているバルデシルには、どうやったらゴデージョの良さを最大限に引き出せるかのノウハウが豊富にあるのでしょう。テロワールの良さもさることながら、このノウハウがバルデシルの美味しさの最大の源泉なのだろうと感じました。
ペドゥロウソスの畑に樹を盗みに来る話の最後に、ボルハさんが言った言葉が印象的でした。
「樹だけ持って行ってもね、いいワインは作れないよ。うちには4世代の経験があるからね。」
【まとめ : バルデシルのゴデージョが美味しく出来る理由!】
・ 4世代に渡ってのワイン造りの経験
・ ゴデージョに適したテロワール
― 600mの標高(ゴデージョに適している)
― 海から120マイルという距離(2つの気候帯の恩恵を受けている)
― 2000m級の山に囲まれた立地(病害を防ぐ)
― 夜間に気温が下がる(良い酸が得られる)
― 南向きで日照が良い(葡萄が程よく熟す)
(杉村)